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ビジネスでの成功を手にした経営者の影

[原題]微妙な、しかし重要な欲求
ビジネスでの成功を手にした経営者の影
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エグゼクティブコーチをつける経営者には、自ら起業した人、大企業でイノベーションを実現している人、業績が悪化している企業を甦らせた人など、さまざまな方がいます。

ビジネスでの成功を手にした経営者の多くは、明るく、身も心も健康そうで、エネルギーが満ち溢れ、仕事もプライベートも充実した毎日を過ごしている印象を受けます。

しかし、成功の「光」とは別に、「影」を持っている人も多いと感じます。

仕事に邁進し、成功のステージを昇る中で、自分にとって大切な価値観や欲求を見失ってしまうという、成功の「影」の部分です。

このような成功の「影」について、カリフォルニア臨床心理学大学院の元学長で、Center for Leadership Renewalの会長ジョン・オニールは、著書『成功して不幸になる人びと』で、以下のように説明しています。

「感性に優れた創造力のある人間になりたい、心の平安を得たい、地域社会に貢献したい、自分と仕事との間に精神的な絆を見つけたいといった欲求は、基本的な欲求に比べると表に出にくいが、強さでは決して引けを取らない。出世して高い地位を得た人びとは、こうした『微妙な、しかし重要な欲求』を無視してしまうことが非常に多い(二重鍵括弧引用者)」(※)

「影」が現れる

サービス業を経営するA氏は、3年前からエグゼクティブコーチをつけています。

エグゼクティブ・コーチングを開始して、しばらくたったある日のセッション。A氏は、会社の数年後のビジョンを描いた資料について一通り説明をしてくれました。それは、とても洗練された内容で、誰が見ても、完璧だと感じるビジョンでした。

しかし、私は、Aさんの話を聞きながら、何か違和感を覚えていました。そしてその後、Aさんと私は、この“違和感”について対話を重ねていくことになりました。

Aさんは学生時代、バスケットボール部の主将でした。チームは優勝を目指せる実力があり、Aさんは主将としてチームを優勝に導きたいという強い思いを持っていました。しかし、大きな怪我をしてしまいます。長い間、試合は勿論、練習もできなくなってしまったのです。そして、チームは優勝を逃しました。

学生時代に優勝できなかったこと。

これが、Aさんの心の片隅にずっと残っていました。

大学を卒業したAさんは、大企業に就職しました。数年間働いた後、そこでの成長に物足りなさを感じたAさんは、自ら事業を起こします。そして、事業を急成長させ、起業家として成功したのです。

Aさんを成功に導いた原動力は何だったのか?

Aさんは、学生時代にチームを優勝に導けなかった悔しさを、仕事で晴らそうとしていたのです。

起業後、押し寄せる仕事に追われる中、Aさんの生活スタイルやペースは大きく変化していきました。そして、ビジネスで成功することだけがAさんの目的となっていきました。いつしかAさんは、自分自身のことについて振り返る時間を失っていったのです。

「影」の正体を知る

成功してなお、Aさんは「チームを優勝に導けなかった」という未完了感と共に、漠然とした満たされない感覚を持ち続けていました。

何回目かのコーチングの場で、私は聞きました。

「“チームを優勝させる”ことで、Aさんは何を成し遂げたかったのでしょうか?」

Aさんはしばらく考えた後、次のように答えました。

「...みんなを喜ばせる、ということですかね...」

「“チームを優勝させる”ことと、“ビジネスで成功する”ことには、どのようなつながりが見出せますか?」

「...チームメンバーや会社の部下など、“自分の仲間を自分の力で喜ばせる”ということですかね...」

自分にとって最も大切な価値観を、Aさんに忘れさせてしまったのは何だったのか?

それは、「成功者でありたい」という自身の強いエゴだったのです。
そして、それが「影」を生み出すことに強く影響していたのです。

「人を喜ばせたい」という、Aさんの“微妙な、しかし重要な欲求”は、「優勝=成功」の影となって、Aさんの心の中にずっと残っていたのです。

真理はどこにあるのか?

「影」の正体に気付いたAさんは今、仕事の目的を新たに見出しています。

それは、仕事を通じて、「自分の仲間を喜ばせる」こと。自分の力で、持続的に事業を成長させ、雇用を増やし、より多くの社員が喜ぶ会社をつくっていく、ということです。

事業で自身の価値観を体現すること、そのために経営者として内的な成長をしていくこと。これこそが、経営者としての成長なのではないかと私は思っています。

自分の仕事の目的、意味は何か?

その真理は自分の中にしかありません。

それを体現するためには、まず、自分にとっての真理が何なのかを知ろうとすること、知るために考え抜くことが必要です。そして、他人の評価に気をとられず、自分をごまかさず、常に自分の真理をよりどころに生きていく姿勢を持ち続けることが、唯一の道なのだといえるでしょう。

あなたは仕事で何を実現したいですか?
そして、それによって、何を得るのですか?

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【参考資料】
※ 『成功して不幸になる人びと ビジネスの成功が、なぜ人生の失敗をよぶのか』(ダイヤモンド社)
ジョン・オニール(著)/神田昌典(監訳)、平野誠一(訳)
p.4-5

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